北星余市を紹介、生き方を考えるウェブマガジン
2018年10月発行
星しんぶん
hoshiii
「残虐で、人のすることじゃない!」と思う凶悪な事件のニュースが流れます。すると、「挨拶をする普通の青年だった……とてもそんなことをするようには……」なんて、ご近所さんたちがおきまりの台詞を口にします。人は誰もがとことん残虐になれるのです。『夜と霧』が私にそのことを教えてくれました。この本に書かれている、アウシュヴィッツで起こった事実は狂気を超えています。でも、それを起こしたのは私たちと同じ人間なのです。高校生の自意識過剰な私をゴツンと深みに落とし込んだ一冊でした。
ただ、人の残酷さよりもはるかに大切なことを私はこの本から学びました。私たちはよく「なぜ私だけにこんなにひどいことが?!」と人生に問いかけます。不条理な現実はこの世に山ほどあるのに、「自分に限って……」なんて思うのです。強制収容所なんてもってのほかです。
収容所を生き抜いた著者、ヴィクトール・E・フランクルは、絶望的な現実を前に人生に問いかけることはしませんでした。むしろ彼は、人生から問いかけられていることに自らの存在意義をつなぎとめたのです。「さあ、この現実の前に、この世界で君はどう生きるのか?」ってね。
2002年に新版が出版されていて、訳者も表紙も変わっています。新版はまだ読んでいないので、私が読んだ旧版を掲載します。
『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』
V.E.フランクル/霜しも山やま徳とく爾じ/みすず書房
品切中
顔がすぐに赤くなるマルセラン。そして、クシャミが止まらないルネ。ずっと一緒にいても気にならないくらいの友情で結ばれます。でも、ある日、唐突に途絶えてしまいます。突然のお引越し。大人の事情ってやつです。君との出会いに終わりが来るなんて! 今がどれだけ貴重なのかってことは、終わってから初めて気がつくものです。早めに気がつく方法ないなかぁ。
『マルセランとルネ』
ジャン・ジャック・サンペ作
谷川俊太郎訳/リブロポート
品切中
道具は人の身体の延長です。
自分の身体ではできないことを、道具を使って解決します。例えばハサミ。手では綺麗に切れないから、刃物を合わせて切れるように作りました。便利な道具! このように道具を作って、できないことをどんどんできるようにしてきたのが人類の生活誌。道具を眺めながら、いったい何ができるようになりたかったのかを考えると面白い。この本はイギリスの生活誌が道具とともに紹介されてます。今より不便で時間もかかるんですけど、なんだか憧れちゃうんですよねぇ。
『図説 イギリス手づくりの生活誌 伝統ある道具と暮らし』
ジョン・セイモア著/小泉和子監訳
生活史研究所翻訳/東洋書林
品切中
自分の感覚にとことん忠実な通称ペコこと星野裕。良いとか悪いとかそういう大人の常識は一切信じない。川には飛び込んでみるし、練乳をチューブから吸ってたりするし、学校にも来ないし、何でも自分の好き放題。不良ってわけじゃなくて、自分の感じ ることを特別大切にしているかっちょいい男。幼馴染のスマイルこと月本誠は、自分は自分だってクールに振る舞ってるけど、ほんとうは人にどう見られるかに敏感な秀才男子。月と星っていうコンビがたまらんユーモア松本大洋。そして、クライマックスでは、二人のキャラクターがまった く逆になるんです。でも、それが本当っぽいなと。自分の中にもいろんな性格が中に詰まってるし、一定じゃなくて体調や気分次第だったりしますもん。自分で自分のことを決めつけると不自由で苦しい。自分のことを一番知らないのは自分だったりするかもなぁ。ペコもスマイルも卓球を通して、自分と向き合い自分を見つけました。
『ピンポン』
松本大洋/小学館
¥648(Kindle版)