北星余市を紹介、生き方を考えるウェブマガジン
ギター持って各地を点々
柴田英梨
ERI SHIBATA
高知県の馬路村の柚子畑で、柚子に囲まれながら柚子収穫の仕事をしています。しかしそれも11月末まで。それが終わったら、私は何も決まっていません。
こんな生活が始まったのは今から2年ほど前。私は今34才ですが、病気などのため、しっかり働き始めたのは30歳からでした。働く生活に慣れて2年くらい経った頃、「1年前と何も変わっていない……」と言いようのない不安に駆られ、地元の仕事を辞めて日本を放浪するようになりました。定職に就かず、様々な場所を転々とし、ほぼその日暮らしのような日々。去年からはラフティングガイドの仕事をするようになり、夏が終わると東南アジアを一人旅し、年末年始も海外で過ごしました。
今の私にとって働くことは、旅するための費用を稼ぐこと。同じ場所にいるとなんとなく気持ちが安定しないので、定住せず、仕事も決めず、フラフラ居場所を変えています。こうした生活に反感を買うことも、批判されることもありますが、実家から通って働いていた頃より明らかに生き生きしている。それに気付いた時、もうそれでいいんだ、と自分で納得でき、周りもあまり私を責めなくなりました。
そして今、高知県で柚子収穫の仕事をしています。どこにでも仕事はある。選ばなければどこでも働ける。足が悪い農家のおばあちゃんのお手伝いをして、柚子畑でパンケーキをごちそうになりながら、死んだじいちゃんの話を愛しそうに話すばあちゃんを心底から可愛いと思いながら、今この文を書いています。出会えて良かったなあ、来年もまた来たいなあ、と思いながら。
フラフラしていると、その土地に定住して働いている人たちと出会います。土地土地で働き方が全然違うのも分かる。県民性や、その地域のしきたり、食べ物や飲み物がある。その中で毎回新鮮に働ける今のフラフラ生活に満足しています。郷に入ったら郷に従えで、正解なんて何もなかったんだなぁと実感します。
日本で出会った外国人は、2ヵ月以上休みを取って旅をしている人も多く「なぜ日本人はそんなに働くのか?」とよく聞かれます。最初はちょっとしたカルチャーショックでした。海外で出会った長期間旅をしている日本人旅行者の多くは、仕事を辞めているか、季節労働をしている人でした。お金がなくなったら日本に帰って仕事をするという、定職についていない人たち。その違いを考えると、日本は「同じ場所で同じ仕事をする」ことが当然で、長い休暇はなく、遠くへ行きたい場合は仕事を辞めるか、定職に就かないかという選択しかないことが分かります。そして、長期間旅をしている人の多くは、日本の社会ではあまり良く思われないように感じます。
でも、私が旅をしていて出会った人たちはみな素敵な人ばかり。この人たちに出会っていなければ、今の私、今の生活、今の居場所はないな、と思う出会いが数多くあります。そこに感謝と誇りを感じています。
どこに行っても「普段は何をしてるの?」と聞かれますが、どう答えたらいいか分かりません。いつも困ってしまう質問ですが、堂々と「決まってません、フラフラしてます」と答えています。何者でもない自分に少し考えることもありますが、それで生きていける自分に少し力強さも感じます。
何者でもなくても、自分が納得できればそれでいい。柚子畑でそんな風に思う、今日このごろです。
文・写真:柴田英梨
柴田英梨 | ERI SHIBATA
岐阜出身。なのにほとんど岐阜にいない。スナフキンみたいにギター持って各地を点々としてます。夏のラフティングガイド以外は、仕事決めてません。秋は大体、大好きな高知に戻り鰹してます。お酒大好き。