北星余市を紹介、生き方を考えるウェブマガジン
写真家
辻田美穂子
MIHOKO TSUJITA
2019年の大晦日、私は確定申告の準備のために1年分のレシートをテーブルいっぱいに並べて、ひたすら数字の打ち込みをしていた。昨年度は提出期限ぎりぎりになってしまって、レシートの入力ごときに徹夜した自分を死ぬほど責めたのに、今年も12月31日まで手をつけなかった。21時ごろ、ニュージーランドにいる友達から「あけおめー」と電話がかかってきたけれど、あけました感はまだないし、全くおめでたくもない状況。それでも電話をくれたことはとても嬉しくて、近況やなんでもないことを話しているうちに気持ちがほぐれてきた。終わりの見えない絶望の底にいたけれど、目の前の山を崩せそうな気がした。PCへの入力が終わったのは23時52分。やり切ったという達成感でじーんとしているうちに、年をまたいでいた。
10代と共に終わると思っていた地獄は20代になっても続いたし、29歳から30歳になる時は、「さよなら、ちやほや」と思ったけれど、今もごくたまーにちやほやされる。毎日は地続きだ。年をとっても、名字が変わっても、大事な人がいなくなってその人なしの世界が始まっても、銀行の残高が三桁になっても、歩んできた人生の質量は劇的には変わらず、昨日までがグラデーションになってついてくる。
以前は不安になると日常生活もままならなかったけれど、それを乗り越えたり、また同じ状況に陥ったりを繰り返していたら、ピンチの時の対処法がだんだんわかってきて、それは「経験」になった。少しずつ経験を積み上げてきたら予測ができるようになって、正体のわからない不安に準備やアドバイスができるようになった。そうして心にできる小さなスペースが、「余裕」と呼ばれるものなのかもしれない。余裕があると、悩んでいる人にも、怒っている人にも、同じように混乱している自分にも少し心を配ることができる。それにじんわり応えてくれる周りの人に支えられながら、今が続いていけばいいなあと思う。
文・写真:辻田美穂子
辻田美穂子 | MIHOKO TSUJITA
大阪出身の写真家。祖母の出身地である「樺太(サハリン)」の写真を撮るために北海道に移住。2019年度より、毎週総合講座で写真の授業をしている。少しずつ北星余市に友達ができてきて、嬉しい。