表紙の写真のうらばなし

2021.12.13 コラム

写真家

辻田美穂子

MIHOKO TSUJITA

パリッとした秋晴れが気持ちのよいある日、表紙の撮影としては初めて学校から飛び出し、車で10分ほどの位置にある余市マリーナへ。今回は総合講座「ヨット」のメンバーです。北星余市では総合講座と呼ばれる2、3年生向けの選択授業が週に2時間あり、一般科目とは違ったさまざまな講座が受けられます。チョークアートやダンスなど校内で行う講座もあれば、山登りやヨットのように校外で行う講座もあります。山や海へすぐにアクセスできるのも余市の町ならでは。

ヨット講座は現地集合なので各自自転車で港へ行きます。到着するなり、ささっとウェットスーツに着替え、みんなでヨットを組み立てます。この日はとてもよく晴れていましたが、海辺は風が強く体感温度はかなり低め。ジャケットを羽織っていても寒かったので、ウェットスーツのみんなはもっと寒かったはず……。ヨットを触って「あったかい……」とつぶやいている子もいました(あとで触ってみたけど普通に冷たかった……)。そんな過酷な環境でしたが、いざ撮影が始まると、それまでガタガタ震えていた子も、「堂々と!」とか「真顔で!」の注文にしっかり応えてくれます。強風で背景に配置した小物や髪の毛はコントロール不能。すべてのものがいい位置にくるタイミングを狙いながら、全員の表情、ポーズ、目つぶりなども気にしつつ、ファインダーの小さな四辺をくまなくチェックします。

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ベストオブベストが撮れるまで粘りたい気持ちと、この寒さから早く解き放ってあげたい気持ちが交差しますが、落ち着いて待ちます。一方撮られる方は、ものすごく寒いのを我慢しているので、最初は表情がこわばっていたり、真顔で撮られることなんてそうないので、なんだかおかしく思えて笑ったりしていましたが、こちらが声をかけ続けていると少しずつ集中モードになってきて、いい感じに力の抜けた強い表情が出てきます。その場の雰囲気を肌で感じ取った全員の呼吸と周りの状況がびしっと合う一瞬に、「きた!」という確信を持ってシャッターを切ります。

余談ですが、集中したあとに撮る記念の1枚は、緊張の一瞬から解放されてほっとするのか表情がほぐれて、それもまたいいなぁと思います。

文・写真:辻田美穂子

 

プロフィール

辻田美穂子 | Mihoko Tsujita

大阪から移住した写真家。北星余市でのたくさんの出会いを通して人生が変わったひとりです。今年の春に余市からせたなに引っ越して子育てしながら、時々赤ちゃんを背負って撮影に出かけています。

 

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