北星余市を紹介、生き方を考えるウェブマガジン
写真家
辻田美穂子
MIHOKO TSUJITA
いつもはさっと集まれる時間を使っての慌ただしい星しんぶんの撮影ですが、以前から被写体になる人とじっくり話し合いながらつくってみたいと思っていたので、今回は少人数で。ふだんよく一緒にいるさくらちゃんとせなちゃんにお願いしました。
まずは撮影場所。いつもは私が決めていますが、今回はふたりに選んでもらうところからスタート。図書委員のふたりが選んだのは、図書室。その中でも、倉庫や作業台の前、入り口のカウンターなど、どんどん提案が飛び出します。さすがいつも一緒にいるだけあって会話が弾みます。撮影の仕事も、デザイナーやアートディレクターなど、カメラマン以外にもいろんな人が関わっていて、たくさんの話し合いを重ねて本番に臨んでいます。最終的には、窓辺の「なんかいいかんじ」のソファに座って撮影することに。いざカメラを構えたら、「なんかいいかんじ」ではあるけれど、「図書館っぽさが足りない」ということがわかりました。ところで、「っぽさ」とは一体何でしょう? ふだん何気なく見ている風景も、いざ「っぽさ」を出そうとすると、とても頭を使います。広告の現場では、何もないスタジオの中に、背景や小道具を使って「家のリビング」や「真夏の海辺」などをつくりだし、さらに照明でその場の光を再現します。ここでは、「図書館=本がいっぱいあるところ」なので、本棚をフレームインするように少しだけ移動して、せなちゃんには本を開いて持ってもらいました。
それから表情。真顔はなかなか難しいけれど、何枚か撮っては確認するという工程を繰り返しているうちに、「中途半端に笑ってる」とか「顔はもうちょっと傾けたほうがいいよね」など、次第にふたりの中に「ゴール」となる表情が見えてきたようです。顔だけではなく手や足の位置、それから服のしわも、その写真の雰囲気を決めるのに重要な要素です。さくらちゃんは右足のつま先と毛布のしわを、せなちゃんは肩にかかる服のずれ具合を、それぞれ頑張ってつくっていました。
こうして微調整を繰り返しながら出来上がったのが、表紙の写真。ぱっとセンスよく切り取ったように見える写真は、実は現場にいるいろんな人のアイデアと時間、それから努力のたまものなのです。
文・写真:辻田美穂子
辻田美穂子 | Mihoko Tsujita
大阪から移住した写真家。北星余市でのたくさんの出会いを通して人生が変わったひとりです。今年の春に余市からせたなに引っ越して子育てしながら、時々赤ちゃんを背負って撮影に出かけています。