「はなす」を願う

2024.02.29 コラム

社会福祉法人一麦会麦の郷所属

伊良部由季子

YUKIKO IRABU

「はなす」から最初に浮かんだのは「自分を表現する術」。自分の気持ちや考えを話すのは容易なことじゃない。「はなす」という自己表現には勇気もいる。自分が受け入れられていると感じられると、どんどん発想は生まれるし、言葉も豊かになる。人と話すことで発散されるし、自分の思考が整理されていく。逆により深みにはまってしまうこともある…。「はなす」って日常生活で当たり前にしていることだけど、実はとっても高度な能力だと思う。私は日々障害のある人や生きづらさを抱える人たちと関わっている。私たちの役割は目の前にいる当事者の権利を守り、意思決定を支援することである。障害の有無にかかわらず、一人ひとりがあたりまえに地域で心豊かに生活できる社会の実現を目指して、ソーシャルワークを行っている。私たちは本人と対面し、はなすことを通して困りごとやニーズを探っていく。障害のある人の中には「はなす」ことが困難な人たちもいる。「はなす」方法は、「口から音声言語として発する」だけじゃない。紙に書いたり、体や手話を使ったり、道具や機械を使ったり、たくさんある。表情などもその人の気持ちや状態を表すひとつのサインでもある。人と関わる仕事をしていると自分の発した言葉の責任や重みがそのまま自分に返ってくる。仕事を通して「はなす」ことの豊かさと大切さ、難しさを痛感している。はなすとは「対話」である。私は対話のできる人になりたい。子どもにも人にSOSが出せて、人と対話できる人になってほしい。それができれば誰とでも、どんな場所でも人と繋がり合っていけるし、自分を表現して生きていけるから。自分の身近な人たち、家族や仕事仲間、友だちと「対話」していくことを大切にできる豊かな日々を生きていきたい。それって当たり前のようでそうじゃないから。「対話」は平和でないと生まれない。心に余裕がないとできない。はなせることの喜びを、対話のできる社会であり続けてほしいと願う。

文:伊良部由季子/イラスト:小高梨乃

 

プロフィール

伊良部由季子 | Yukiko Irabu

和歌山県出身・在住。魂の半分はうちなんちゅー。社会福祉法人一麦会麦の郷で障害のある人たちと共に豊かな社会づくりを目指している。食べてしまいたいくらい可愛い子どもの笑顔にいやされ、「はなす」ことが達者になって立派な自己主張に毎日笑わせてもらっている。

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